東京の下町に佇むモダンフレンチ「ETAPE(エタップ)」。
素材と向き合い、季節を映す一皿を届けるこの店には、味だけでは語りきれない物語があります。
なぜ、この場所には人が集い、また戻ってくるのか。夫婦で営む小さな空間に宿る、地域への感謝と、お客様一人ひとりへのまなざし。
その理由を、静かに語ってくれました。
開業のきっかけと想い
榎本氏: お店の立ち上げについて教えていただけますか?
河村氏: 2021年の3月に、東京の下町でオープンしました。モダンフレンチを提供する10席の小さなお店です。夫婦で二人三脚、地域に根ざして営業しています。このエリアは昔ながらの人情味あふれる雰囲気が残っていて、そうした温かさと寄り添うようなお店にしたいという思いがありました。
榎本氏: 口コミを拝見すると、料理の味や盛り付けはもちろん、接客や空間の心地よさにも高評価が集まっていて、特に『心地よさ』に対するコメントが多い印象でした。
河村氏: 料理人としては素材や味にこだわるのは当然ですが、僕が常に意識しているのは『どうすればお客様がストレスなく過ごせるか』です。例えば予約導線。スマホの右下に予約ボタンを配置して、すぐに押せるようにしています。来店から退店までの心理的なハードルをできる限り下げる。それが、僕の料理以外での『おもてなし』なんです。
心地よさを追求する設計

榎本氏: 料理そのもの以外にも、お客様の動線やストレスの軽減を丁寧に考えてらっしゃるんですね。
河村氏: はい。目に見えない部分にも手を抜きません。カウンター席の設計では、お客様と僕の目線が自然と合うように高さを調整しました。料理人が見下ろす形にもならず、お客様が見上げることもない。自然体で話せる関係性を作るためです。お客様の目線に立って、導線や居心地を細かく考えています。
榎本氏: その距離感も、リピーターの多さに繋がっているのかもしれませんね。
河村氏: そう思います。年齢層で言えば40~60代のご夫婦が多くて、会話も食事もゆったり楽しみたい方が中心。一方で若いカップルには過度に話しかけず、食事の時間を邪魔しないように気をつけています。たとえば60代のご夫婦には、季節の話題や料理の説明を添えて自然なコミュニケーションを心がけています。
榎本氏: 相手を見て接し方を変える、まさにプロの接客です。
河村氏: いえいえ、まだまだ試行錯誤の連続です。現場で得た反省を、帰宅後に妻と話し合って改善しています。「あの時、ああすればよかったね」って、日々アップデートしていく感じですね。お客様との何気ない会話の中から学ぶことも多いんです。
店を支える接客の力
榎本氏: 奥様と一緒にお店を運営されているのも大きな強みですね。
河村氏: もともと妻は飲食とは関係ない業種でした。でも店を手伝ってくれるようになってから、接客の部分で本当に支えてもらっています。僕が厨房に集中できるのも、妻が丁寧にお客様と接してくれているおかげです。実際、口コミでも妻の接客を評価していただける声が多く、それはお店として何より嬉しいことです。
季節を映す一皿を提供



榎本氏: 料理についてもお聞かせください。どういったコンセプトで作られていますか?
河村氏: フランスで8年修業を積みましたが、帰国後は日本の食材や旬を生かした料理を大切にしています。モダンフレンチの枠にとらわれず、その季節にしか味わえない一皿を提供したいと思っています。常連のお客様が「また来たくなる」ように、同じメニューは極力出さず、月ごとに変えています。たとえば、春には山菜やホタルイカを取り入れたり、秋には栗やジビエを用いたり。素材の一つひとつに対して真摯に向き合うのが自分のスタイルです。
榎本氏: それだけ頻繁に来られるお客様がいるというのも、信頼の証ですね。
河村氏: ありがたいですね。中には「あなたの料理を食べに来た」と言ってくださる方もいて。その言葉をいただけるのが何よりのやりがいです。「また来ますね」と笑顔で帰られる瞬間は、何物にも代えがたいですね。
地域とともに歩む店づくり

榎本氏: 地域への想いも強く感じます。
河村氏: そうですね。お店の木材も、常連の材木屋さんが「君の店にはこれが合う」と倉庫から持ってきてくれた一枚板です。こうして地域の方々の支えで成り立っていることに、日々感謝しています。お客様との信頼関係の中で、メニューの提案や特別なリクエストに応じることもあり、地域とともに成長していく実感があります。
店舗の未来と理想の形
榎本氏: 今後のお店の展望はありますか?
河村氏: 店舗展開は考えていません。でも今の店は8.6坪と少し狭いので、もう少しだけ広い空間で、テーブル席を増やして、より快適な食事環境にしていけたらと考えています。たとえばカウンターも、現在はハイチェア中心ですが、高齢の方には少ししんどいと感じられる場合もあり、将来的には座り心地にもさらに配慮していきたいです。
榎本氏: これからも『地域に根ざして、お客様を第一に』という姿勢は変わらないということですね。
河村氏: はい。目の前のお客様が、次もまた「ただいま」と言って帰ってきてくれる。その関係性を大切にしていきたいと思っています。お客様一人ひとりの暮らしの中に、ふとしたときに思い出してもらえるような存在でありたいですね。
料理人としての探究心と、相手を思いやる繊細な感性。
河村氏の人柄がにじむ「ETAPE」は、地域に愛されながら、日々静かに進化を続けています。
何度も足を運んでくれる常連の方々の声に耳を傾けながら、初めて訪れるお客様にも心地よく過ごしてもらえるよう、丁寧に心を配る姿勢は変わりません。
夫婦で営む小さなフレンチは、やさしい時間を届け続けてくれるでしょう。
プロフィール

氏名:河村 神賜(かわむらしんじ)
役職:代表取締役
略歴
フランスで8年間修業し、2021年に東京・墨田区でモダンフレンチ「ETAPE」を開業。夫婦で営む10席の小さな店ながら、料理と空間づくりに徹底して向き合い、地域住民に寄り添う丁寧なもてなしで多くの支持を集めている。
会社概要
社名:株式会社ETAPE(えたっぷ)
本社所在地: 東京都墨田区東駒形2-21-6-102
業種分類:サービス
代表:河村 神賜(かわむらしんじ)
WEBサイト:https://www.etaperestaurant.com/