教えるのではなく、共に育つ。子どもと向き合いながら成長していく先生たちの背中には、園長の深い想いが宿っています。
幼児教育の現場で最も大切なものは何か――。
創立70年を迎えたパール幼稚園の園長・野村氏は、その答えを「人間力」と語ります。
教育理念を支えるのは、子どもと真摯に向き合う『先生』の姿勢。
若い教員の育成、家庭との連携、そして変わりゆく社会に応じた運営の在り方まで。現場に根ざした野村園長の想いに迫ります。
教育の本質は「人間力」を育てること
榎本氏: 野村園長が大切にされている教育方針、とくに先生方の育成について詳しく伺えればと思います。
野村氏: どんなに素晴らしい教育理念があっても、子どもたちと向き合うのは現場の先生です。ですから先生の「人間力」がとても大切です。教育はある意味「人育て」だと思っています。保護者も先生を信頼してお子さんを預けてくださいますから。
榎本氏: 「人育て」とは印象的なお言葉ですね。確かに先生と保護者、子どもの信頼関係があってこその教育ですよね。
野村氏: その通りです。幼稚園は子どもを育む場であると同時に、若い先生たちを素敵な教育者へと育てる場所でもあると思っています。知識や技術だけではなく、人としての成熟も必要で、その両方を支えるのが私の役目です。同時に自分自身も育てていただいています。
人間力(素敵な先生)を育む

榎本氏: その「人間力」を、どのように育まれているのですか?
野村氏: 特別なプログラムというよりは、日常の中で伝えています。たとえば「こういう時に私はこう考える」といった話を重ねたり、子どもと接する姿を見せたり。小さな積み重ねが、先生たちの考え方や姿勢に繋がっていくんです。私自身、教員育成は長年力を入れてきた得意分野でもあります。
榎本氏: 保護者の方から「パール幼稚園の先生は素晴らしい」という声もよく聞きます。どのような点が評価されているとお考えですか?
野村氏: 明るさや元気さも大事ですが、保護者が見ているのは先生の『向き合い方』だと思います。子ども一人ひとりを尊重し、愛情を持って接すること。厳しさの中にも温かさがある、そういった姿勢が信頼につながっているのではないでしょうか。
教育機関としての誇り
榎本氏: 先ほど私が「保育士の皆さん」と申し上げた時、園長は「保育士とは違う」と訂正されました。その違いについて教えていただけますか?
野村氏: 幼稚園は文科省の管轄で「学校」、保育園は厚労省の管轄で「福祉施設」です。目的も資格も異なります。混同されがちですが、私たちは「教育機関」であるという自覚と誇りを持っています。単に子どもを預かるのではなく、知的好奇心や社会性を育む教育の場でありたいと考えています。
目指したのは「日本の餃子」
榎本氏: シビアな世界ですね。その中で25年間も繁栄し続けている秘密は、やはり「餃子の味」にあるのでしょうか。こだわりについて、ぜひ詳しくお聞かせください。
奥村氏: こだわりは「あっさりしていて、コクがある」という点に尽きます。「東京餃子楼」のテーマは、ずばり「日本の餃子」です。
榎本氏: え?「日本の餃子」ですか?
奥村氏: はい。本来、中国の餃子は皮が厚く、それだけで食事として完結する「完全食」のような存在です。それに対して、私たちは日本の食卓に合う「ご飯のおかずとしての餃子」を目指しました。ですから皮は薄皮に、味付けは毎日でも食べられるような、あっさりとした味わいを追求しています。
榎本氏: ご飯に合う餃子、最高です!そのこだわりの味は、25年間変わらないのですか?
奥村氏: いいえ、味は常に進化させています。これはお客様にはなかなか伝わっていないかもしれませんが、開業以来、マイナーチェンジをずっと繰り返しているんです。
家庭教育と母性の力

榎本氏: 教育観を共有する中で、園長として特にこだわっている部分はありますか?
野村氏: やはり「人間教育」です。どれだけ園舎やシステムが整っていても、先生が輝いていなければ意味がない。先生一人ひとりが成長できる環境づくりに力を入れています。それが巡って子どもたちの育ちに繋がると信じています。
榎本氏: 具体的には、どういった取り組みをされていますか?
野村氏: 決まったやり方はありません。日々の会話を大切にし、それぞれの課題に合わせて支援しています。先生たちが「園長ならこうするかな」「園として何がベストか」と考えながら行動できるようになるのが理想です。
榎本氏: 園長のお話を伺っていると、子どもたちだけでなく、先生という「大人」の教育に非常に力を注がれている印象です。
野村氏: そうですね。そしてもう一つ大切なのは「家庭教育」です。幼稚園でどれだけ良い教育をしても、家庭との連携がなければ力を発揮できません。
榎本氏: 家庭教育の中でも、特に重視しているのは?
野村氏: お母さんの存在ですね。特に乳幼児期は、母性の力が非常に大きい。だからこそ、当園では基本的に女性教員のみを採用しています。もちろん他園のやり方を否定するつもりはありませんが、共感性や包容力を重視したいという思いがあります。
榎本氏: お母さん方との関係性についても教えてください。PTA活動などは?
野村氏: 実はPTA組織はありません。でも、保護者の皆さんはとても協力的です。
榎本氏: 地域向けの活動などはされているのでしょうか?
野村氏: はい。本園では地域の子育て拠点事業として、『Pearl 0-2 MaMa Garten』という、ママのあったらいいな!をカタチにした、ママが子育てを楽しみながら、ほっとできる施設があります。子育て経験豊富な幼稚園教諭や在園時のママたちが在中していますので、気軽に子育てに関するアドバイスもしています。子育ては地域のみんなで取り組むもの。今の時代こそ、昔ながらの、この考え方が必要に思っています。
時代と共に変わる幼稚園の役割
榎本氏: 野村園長がこのお仕事を始められて30年以上が経つと伺いましたが、この間に幼児教育を取り巻く環境も大きく変化してきたのではないでしょうか。
野村氏: ええ、それはもう劇的に変わりましたね。昔は午前保育が中心でしたが、今では7時半から夜7時まで預かるようになり、保護者のニーズに応じて柔軟に対応する必要があります。ご弟妹がいるご家庭への配慮として、幼稚園の方を少し遅いお迎え時間にするなど、細やかな対応も大切にしています。
榎本氏: 時代のニーズに合わせて、運営も大きく変わってきたのですね。
野村氏: はい。かつては「そんなのは教育じゃない」と批判されたこともありましたが、幼稚園の役割も時代と共に進化すべきです。また、2つの保育所も運営していますが、それはあくまで地域や教職員のニーズに応えるためで、3歳からは幼稚園で教育を受けてほしいという願いは変わりません。
榎本氏: 小学校まで一貫した教育を、という構想はおありですか?
野村氏: 思いはありますが、現実的には土地の確保や教員体制などの課題が大きく、難しいですね。その代わり、今の幼稚園教育の中で子どもたちにできる限りのことをしていきたいと思っています。
現場主義のこだわり

榎本氏: 園の展開についてはいかがでしょうか?
野村氏: 複数園運営などは考えていません。私は自分の目が届く範囲で、責任を持って運営したいんです。すべての子どもたちや先生の様子を直接感じていたいという思いが強いですね。
榎本氏: パール幼稚園の特徴とは?
野村氏: 何より先生の質だと思っています。保護者が最終的に幼稚園を選ぶ決め手は、「この先生になら預けられる」という安心感です。私たちは、どのクラスの担任でも『当たり』と思ってもらえるよう、教員の育成に注力しています。
榎本氏: 採用にも力を入れているのでしょうか。
野村氏: もちろんです。理念に共感し、子どもたちと一緒に成長できる方を採用しています。特に幼稚園教員は新卒を原則とし、若く元気で子どもと全力で関われる人を重視しています。
榎本氏: 野村園長ご自身は、園長としてどのような存在でありたいとお考えですか?
野村氏: 自然体で、誠実でありたいですね。園長だからといって偉そうにするつもりはありません。判断に迷ったときは常に「子どもたちにとって何がベストか」で考えるようにしています。
榎本氏: その姿勢が、先生方への教育にもつながっているのですね。
野村氏: そうだと嬉しいですね。私たち大人は、子どもたちにとって環境の一部です。だからこそ、身だしなみや姿勢にも気を配ります。子どもたちに対して、敬意を持って接するべきだと思っています。
榎本氏: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。
野村氏: 幼児教育は、子どもたちの未来の土台を作る大切な役割を担っています。保護者や地域の皆さまと共に、子どもたちが健やかに育つ環境をつくっていけるよう、私たちも努力を続けていきたいと思っています。
「子どもたちにとって何が最善か」を軸に、時代の変化にも真摯に向き合いながら、現場で一人ひとりと丁寧に向き合うパール幼稚園の姿勢。
その根底にあるのは、人を育てることへの真っ直ぐな想いです。
未来を担う子どもたちの笑顔が、ここからまた一つ、輝きを増していくことでしょう。
Pick up:
人を育て、未来を支える
──パール幼稚園・野村理事長の「人軸経営」
学校法人野村学園パール幼稚園の野村良司理事長は、「人に軸を置く」独自の経営理念を掲げ、幼児教育の現場に向き合い続けている。インタビューを通じて見えてきたのは、教育環境やカリキュラム以上に、教職員の育成に重きを置いた明確な方針だった。
野村理事長は「教育理念やシステム、施設がどれほど整っていても、子どもと向き合う先生が輝いていなければ意味がない」と語る。教育における最大の資源は「人」であり、特に幼児期に関わる教員の人間力が、子どもの成長に大きな影響を与えると考えている。
そのため同園では、日々の対話を通じて価値観や判断軸を共有し、教職員が自ら考えて行動できるよう導く育成を重視。画一的な指導ではなく、現場に即した個別のフォローを行い、教員の主体性と成長を促している。こうした方針が保護者からの高い評価につながっているという。
また採用面では、新卒を積極的に受け入れ、若さや活力、子どもが憧れられる存在としての魅力を重視する。「子どもは人を見て育つ」という考えが根底にある。
パール幼稚園は、文部科学省の管轄する「学校」として、教育機関としての誇りを持って運営されている。共働き家庭の増加など時代の変化にも対応し、保育所の併設や預かり保育の拡充など柔軟な体制を整備。かつては批判の声もあったが、子どもの健やかな成長と家庭のニーズの両立に取り組んできた。
「自分の目が届く範囲でしかやらない」と語る野村理事長は、現場主義を貫きつつ、「小学校までの一貫教育も視野に入れている」と今後の展望を語る。その背景には、「もっと良くしたい」という向上心と、「子どもにとって何が最善か」を常に考える姿勢がある。
パール幼稚園の教育は、理念ではなく現場で実践される“人”によってつくられている。野村理事長の人軸経営は、これからの幼児教育のあり方を問い直すヒントを与えてくれるだろう。

法人紹介

パール幼稚園、その誕生と歩み
1955年に大田区東蒲田で開園したのが野村学園の始まりです。パール幼稚園の名称の由来は、「子どもは宝、宝といえば宝石、日本の代表的な宝石といえば、真珠」ということで、その宝物を大切に育てる幼稚園、「パール幼稚園」という名前になりました。
創立から70年の歳月が経ち、世の中が大きく変化しました。物質的にも文化的にも豊かになった現代だからこそ、創立原点を大切にし、教育の本質、地域に生きる人々にとって必要な子育て支援、子どもたち自身に必要な教育とは何か?と真摯に向き合いながら子どもたちの未来を創造し続ける野村学園の実現を常に目指していきます。

学校法人野村学園の事業展開
学校法人野村学園は、パール幼稚園の幼稚園教育に軸を置き以下の事業展開をしています。
①パール幼稚園(2歳~5歳の幼児教育)
②Pearl 0-2 MaMa Garten(地域の子育て拠点事業/母子の子育てを応援する施設)
③BaBy Pearl Nursery(1歳〜2歳小規模保育所)
④Pearl Nursery School(1歳〜2歳企業主導型保育所)

育ちのテーマ「育ち愛」
どんな時でも自分の華を咲かせることができるようになって欲しいと願っています。子どもたちには、それぞれがいいところ(得意なもの)があります。人は得意なことを人のために役立てることが使命(役割)だと考えています。ですから、それぞれの役割をみつけ、それぞれに合ったことで活躍することが、人としての幸せにつながることではないでしょうか。
楽しいばかりが幼稚園ではありません。日々の生活の中で、自分の思い通りにならないこと、努力しても叶わない思い、人との関わりの中での悲しい気持ち。これらの嫌なことも克服し、社会で生きていく術を身につけていくことが大切になるのです。幼稚園というところは、人を育む空間だと考えています。自分一人では自分を育むことはできません。仲間がいるから、自分もいるのです。皆で手を取り合って共に育っていく『愛』を育む場所なのです。
事業紹介

「育ち愛」という相互依存の関係性
パール幼稚園では、「育ち愛」をテーマに掲げ、日々の教育活動において、他者との関わりを大切にしています。「あの子がいるからウチの子も育つ」、我が子が生活を営んでいく中で、他者の存在の大きさを理解して欲しいと保護者の方々にも知ってほしいと願うからです。
学びの入り口は「憧れ」からはじまります。いつかはボクも・・・こうなりたい!という向上心が子どもたちを成長に導くのです。人の成長は3段階で考察することができるのです。
1.やりたいことをやる段階。2.やれることをやる段階。3.やらなければならないことを知る段階。このステップを通じ、集団の中でのルールや社会性を身につけていくのです。
親としての子育ての目標は万人共通で「自立」と「自律」を促し、「相互依存」ができるように社会に送り出すことであると考えています。人は誰かに喜ばれるために生まれ、誰かの役に立つために生きていきます。これらを理解するためにも幼児期に集団でのあり方、幼稚園教育の重要性は、とても大きな役割をもっています。
人の成長のスパイラルとして、やってみたい→できるようになる→できるから面白い→面白いから夢中になる→夢中になれるから得意になる。人は自分の才能、できれば得意なことを活かせた方が輝くものです。でも、この成長のスパイラルを身をもって知らなければ、なかなか誰かの役に立つために自分を活かすことができません。幼稚園での日常の生活を通じ、日々の教育活動を継続していく中で身についていきます。

独自のメソッドで育む三つの力
パール幼稚園では、知識詰め込み型の教育とは異なり、「人としての土台」を育てるための三本柱が掲げられています。それが、「姿勢のチカラ」「カラダのチカラ」「言葉のチカラ」です。これらは一見シンプルに見えますが、日々の生活に深く根ざした実践を通じて、確かな人格形成につながる重要な要素です。
1.姿勢のチカラ
腰骨を立てることで性根を育み、自分自身で心を整えていきます。この性根を育むことを習慣化していくことにより物事に取り組む姿勢が身についていきます。5歳児にもなれば、正しい姿勢で20分以上も椅子に腰掛けることができるのです。三つ子の魂、百までも。一度、習慣化され身についたことは大人になっても忘れないものです。

2.カラダのチカラ
毎日の継続により、「ちょっとやればできるスゴイこと」が身につき、子どもの自信につながります。できるから面白い、面白いから夢中になる、夢中になるから得意になるという、子どもの特性をくすぐりながら継続していくことで身に付く過程の大切さを覚えていきます。

3.言葉のチカラ
美しい心は美しい言葉から育まれていきます。わたくし達の母国語は美しい心を育み、情緒を表現できる美しい言葉です。本園独自の教材を活用して、言葉により正しさを身につけていきます。

プロフィール

氏名:野村良司(のむら りょうじ)
役職:理事長・園長
略歴
戦後間もなく祖母が創設したパール幼稚園を継承し、園長として30年以上にわたり現場に立ち続ける。「教育は人がすべて」という理念を軸に、家庭・地域と連携した保育にも力を注いでいる。
学校法人概要
社名:学校法人 野村学園パール幼稚園(がっこうほうじんのむらがくえんぱーるようちえん)
本社所在地: 〒144-0031 東京都大田区東蒲田2-21-15
設立年月日:1955年
業種分類:教育・研修
代表者名:野村良司(のむら りょうじ)
WEBサイト:https://pearl.ac.jp/
